エンタメ特別インタビュー:石川 寛さん

2013年03月31日 21:42 | としろ

映画「ペタル ダンス」

公開日:4月20日 劇場:渋谷シネクイント、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー 配給:ビターズ・エンド
http://www.petaldance.jp/

 「tokyo.sora」「好きだ、」の石川 寛監督らしい、映像と演出が楽しめる作品だろう。やり取りされるセリフや反応のひとつひとつがリアルで面白い。宮﨑あおい、忽那汐里、安藤サクラ、吹石一恵──の豪華な4人の女優が、それぞれの反応をお互いで感じながら、一緒になって手探りで作品を作っていく様子が画面から伝わってくるのだ。映像美の秘密など、石川監督に話を聞いてみた。


(c)2013『ペタル ダンス』製作委員会

大学時代の友人同士が、自ら海に飛び込んだと噂されているクラスメートを訪ねるロードムービー


──マックを使っていらっしゃるんですね。
 はい。MacBook Airを使っています。4年ほど前にいちど、3年くらいウィンドウズに浮気したんですけど(笑)。ソニーのVAIOを使っていました。当時、仕事で海外に行くことが多かったので、シンプルで軽いノートパソコンを探していたんです。MacBook Airがちょうど出たばかりだったんですが、価格が高く、スペックもそれほどではなかったので……。ただ、結局またマックに戻ってきましたね。半年くらい前にAirを買いました。
──マックを使いはじめたきっかけを教えてください。
 働いていた制作会社にマックがあり、ときどき使っていたんです。ただ、買うほどじゃないなと思っていました。もともとアナログ人間なんです。何かあれば手書きでメモを取りますし、映画のシーンなどもノートに描いています。手書きのほうが印象に残りますし……。それが、iMacのグラファイトを見たときに「きれいだな」と思って、買ってみたのが最初のマックです。なんだかんだ、すぐに仕事に使いましたね(笑)。
──デジタルで作業が楽になった部分はありますか?
 VAIOの前に使っていたPowerBook G4で「好きだ、」の脚本を書きました。今回の「ペタル ダンス」は、ちょうどVAIOを持っていたときに脚本を書いた作品なので、VAIO上で書きました(笑)。脚本を編集できるというのは、デジタルのいいところですよね。紙だと、修正していくうちに読みにくくなる。撮影時にも使っていて、その場で書き換えたり順番を入れ替えたりできるというのは、コンピューターの中だからこその作業だと思います。また、コピーできるので、それを書き換えてみて悪かったら、すぐに元に戻れることも助かります。
 映画は自分で映像を編集しているんですけど、そこでもデジタルのよさを感じます。簡単にシーンを入れ替えられるし、それによって印象をすぐに変えられます。
──映像の色が独特だと感じました。それは映像を編集する中で調整しているのですか?
 今回の映画に関しては、映像は撮影時のオリジナルに近いです。ただ、必ず調整はします。「tokyo.sora」「好きだ、」「ペタル ダンス」の3本とも、あとから明るさや色、コントラストは調整しました。撮影時に感じた色にしたいなと思っています。その場にいるような空気感を観ているみなさんに伝えたいので、それがいちばん感じられるように調整し直します。でも今回の「ペタル ダンス」は、その作業がいちばん少なかったです。「tokyo.sora」は、それが激しかったですね。
 現場でこういうふうに見えたと感じたら、それは変えていいと思ったんです。できるだけ自分の目で見たものにしたいなと。今回の「ペタルダンス」はロードムービーで、後半に別の場所に行くんです。青森の北の果てのほうに。そこの映像は、ほとんど撮影時のままです。色合いを調整しなくても実際の見たままの色に近いんです。いつも雲がかかっているんですけど、雲が光の表情を作ってくれるんです。だからこそ、いつも独特の空の色になり、それが映像全体の独特の色合いになったんだと思います。
 僕だけじゃなくて、映像を撮影する多くの人は言うんですけど、その町その町に違う色の光があるんです。中でも青森は独特で、雲が持っている色というか質感が、グレーだけどあまり重くないというか……。また、天気が変わりやすいので、光に表情が出やすいという特徴もありますね。
──撮影用のカメラの精度が上がったことで、映像が変化したという部分もありますか?
 ありますね。今回は、かなりベストに近いカメラを選べました。「tokyo.sora」は、当時はフィルム上映だったのでフィルムカメラで撮影したかったんですけど選べなかったんです。予算が限られている中、僕は現場でフィルムを回すタイプだったので、フィルム代がかかってしまう。それがビデオテープにすると、ワンシーンで1時間くらい撮れる。それはフィルムにはできないことですね。ただ、ビデオカメラだとなかなか独自のトーンが出せなかったので、カメラマン、ビデオエンジニアさんと色みを調整していきました。
 カメラが高性能になってきて、映像が目で見ているものに近づいてきましたね。映画がデジタル上映になってきたので、フィルムにする必要がなくなりました。フィルム好きとしては正直さみしいんですけど、デジタルカメラによって、現場で感じた色や光をよりストレートに伝えることができるようになったかもしれません。
 デジタルカメラは、弱い光もそのまま再現できるんです。それはフィルムカメラにはなかなかできないことです。例えばナイトシーンの場合、フィルムカメラだと感度が足りないのでライティングが必要になります。どんどんライティングをすると、結局、実際のナイトシーンとは雰囲気が違ってくる。それがいままでの撮影の常識だったんですけど、デジタルカメラはある程度暗くなってもそのまま撮れます。僕は昼間は自然光で撮ったほうがいいと思っているノーライト派なので、昼間の撮影がほとんどだった今回は、照明スタッフは入っていません。
 映画の中でナイトシーンがあるんですけど、そこはマジックアワーに撮影しています。ギリギリ空に青みが残っている夕暮れに撮るんです。夜になってから撮ると真っ暗になってしまいますから。人間は夜でも空を感じるじゃないですか。それを映像にしようと思うとフィルムだと難しいんです。露光がとれなかったりするので。ナイトシーンはデジタルカメラのほうが再現しやすいと思います。見た目に近い夜空が撮れるんです。
──その場の空気感という点では、映像だけではなく、セリフひとつひとつにも感じました。
 その日のシーンをとる前に、必ず出演者それぞれに手紙を渡します。それはセリフのやり取りが書かれている脚本とは違って、それぞれの役割を伝えるものです。例えばジンコが流れを作るシーンだったら、そういう役割を書いて、原木は見守っているだけだったら、そういう役割を書いて……。自分で脚本は書くんですけど、撮影を進める中で元の脚本から変わっていってもいいと思います。僕が通ってほしい点を通ってくれれば、ストーリーや流れはできてくると思っています。それを手紙にして渡すわけです。次のシーンでは、こういうことを思ってほしいとか感じてほしいとか、そういうことをお願いすることもよくありました。
 当然、どのシーンもはじめて撮るので、毎回同じにはならないというか同じにはできないです。登場人物の関係性なども、撮影が進むにつれて変わってきます。ああいう話をしたらこういう反応が返ってきた、だったら次はこういう話し方にしようとか……。撮影現場で僕は話したことに、出演者それぞれの解釈というか答えを見つけて返してくれるんです。それがテイク1でよければOKにしますし、脚本に書いた本質とズレていれば修正してもらいます。
 今回の「ペタル ダンス」は、不思議とテイク1でのOKが多かったです。後半に行けば行くほど、その傾向が強くなりました。それはやっぱりNGのときに話し合うことで、僕が望むそれぞれの役の何かをつかんでいってくれたのではないかと思います。ミキに会ってからは、ますますテイク1でのOKが多くなりました。ミキに再会するシーンなどはテイク1だけで十分でした。そこには久々に会うという空気が必要なんです。実際のように。ああいう一度きりしかないはずのシーンほど、テイク1でOKにしたいんです。
 前半で、原木が先輩に聞き返すシーンがあるんですけど、そこはテイク1の表情が圧倒的によかったんです。先輩の言ったひと言が、原木には本当に意味がわからなくて聞き返している感じが。それが、テイク2以降は先輩の言うひと言がわかってしまっている。だからどうしても反応が違ってしまう。そこは技術ではカバーできないというか、人は知ってしまったことを知らないふりをするのはやっぱり難しいというか……。だからこそ、テイク1にこだわりたいというのはありますね。


石川 寛
''63年生まれ、秋田県出身。資生堂・マシェリ、サントリー・ビタミンウォーターなどのCF監督を経て、'02年に「tokyo.sora」で映画監督デビュー。'05年に「好きだ、」でニュー・モントリオール国際映画祭最優秀監督賞を受賞