エンタメ特別インタビュー:イ・ヨンジュさん

2013年04月26日 23:15 | としろ

映画「建築学概論」

公開日:5月18日 劇場:新宿武蔵野館ほか全国ロードショー 配給:アット エンタテインメント Twitter & Facebook:kenchikumovie
http://www.kenchikumovie.com/

 建築士スンミン(オウ・テウン)の前に、ソヨン(ハン・ガイン)という女性が突然現れて、家を建て替えてほしいと言う。実は2人は15年前に同じ大学に通っており、お互い抱いていた恋心を相手に告げられないまま遠ざかってしまっていたのだ。建築の過程で少しずつよみがえる当時の記憶や感情。しかしスンミンには、すでに婚約者がいた……。
 もともと建築家だったイ・ヨンジュ監督が、「家」をテーマに描き出す。今回のこの作品について、監督に話を聞いてみた。


(c)2012 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved

スンミンとソヨンを、現在と大学時代でキャストを変えて描いている点も面白い。韓国で社会現象にまでなった、400万人超えの大ヒット恋愛映画だ


──「建築学概論」というタイトルからもわかるのですが、恋愛映画の中に建築というテーマを盛り込んだきっかけを教えてください。
 映画の中で初恋だけを描くとなると、陳腐なありきたりなものになりがちです。それをなくす方法として、「建築」をフィルター代わりに使ったといえます。「家」と「愛」がどのように影響し合っているかを、常に頭に置いて考えてきました。男女間がお互いに好感を持ち、共通点、違いをどんどん知っていく中で愛が芽生えていきます。それが記憶の共有として残っていくわけです。そうした記憶が恋人同士の初恋の重要な過程であるとすれば、建築というのは建てる側も依頼する側もお互いを理解し合うという似たような過程を経ます。依頼主が建てたい家というのは、将来にわたるその人の人生の象徴でもあるわけです。私がこのシナリオを書きあげてから3、4年後に発刊された書籍で「幸福な建築」というものがあるのですが、その中の1節に「家は記憶の貯蔵であり理想を表す」というものがあります。私はそれを読んだときに、このシナリオで映画を撮りたいと思いました。
──依頼された家を建てる際にリノベーションを選んだ理由はなんでしょうか?
 新築ではなく増築にするというのは、この映画の中でも重要なテーマになっています。はじめ、依頼主であるソヨンは新築を望みますが、以前住んでいた家を訪ねるうちに昔の記憶がよみがえります。昔の思い出が詰まった、場所や空間、そのすべてをなくしてしまうのはもったいないという感情を抱くわけです。結局は、一部を残して増築をするという選択をしますが、これは人生にも似ている部分ですね。この映画について韓国の評論家が「建築も人生も新しく生まれ変わることはできない。リセットすることはできない。過去を抱き増築するのみ」というコメントを残しているのですが、大変ありがたいですね。記憶を残しつつ、現在の中でその記憶を増築するのが人生であり建築であると考えました。
 15年前に2人は恋が実ることなく離ればなれになってしまいますが、過去を残しつつ、これから2人は新たな人生を積み上げていく──ということで、増築と重ね合わせてみました。ソヨンは島に戻り、父親の記憶が残っている中で父親の家ではない新たな自分の家を増築したわけです。何を残し、そこに何を新しく積み上げるかというのは、人生も建築も同じだと思います。
──成人したキャラクターを違う役者で演じるというのは新しい試みですが、そうしようと思った理由とキャスティングについて聞かせてください。
 映画の制作当初からダブルキャスティングでやりたいと思っていましたが、不可能ではないかとも考えていました。主役クラスの役者が、半分だけしか演じないという話をOKするわけがないと思っていたんです。また、2人の役者のどちらの出番が多いか、といったこともあるでしょうし、まったく同じ人物を2人でやるというのは厳しいというのが大方の見解でした。それでは、ひとり2役ができる役者を探してみようと思いましたが、大学1年生と30代半ばを両方演じられる役者というのは年齢的に数名しかおらず、彼らは私の中ではちょっと違っていたんです。その中で、オム・テウンがダブルキャストでもOKだと言ってくれましたので、そこから話が進みましたね。
 キャスティング自体は大変だったのですが、ダブルキャスティングにした長所もあります。この映画は、過去と現在を平行して描き出しています。そんな中で、現在の人物が決して過去に帰ることができない──というテーマもあります。別の人物にしたほうが、絶対に過去に戻れないという悲壮感を観客に伝えやすいですよね。また、この映画はスンミンとソヨンの映画なので、2人が出ない場面がありません。そのため、同じ役者がずっと出続けるというのは見ているほうも飽きるのではないかと思いました。別の役者なら、見ているほうも楽しみが2倍にふくらむように感じたんです。とは言え、私は大変苦労をしましたね。本来は2人を相手にするだけでよかったものが、4人を相手にすることになり、とても気を使いました(笑)。
──この作品は、韓国では400万人超えの大ヒット作となったのですが、その要因はなんだったのでしょう?
 この動員数はまったく予想していませんでした。フタを開けてみると、ひとりで見に来ている男性が多かったようですね。また、見に来ていただいた方のうちの100万人ちょっとはリピーターのようです。多くの人が見る映画もあれば、熱狂的なファンがつく映画もあります。「建築学概論」は後者にやや近いのではないかと思いますね。この映画を熱狂的に支持してくれる男性ファンが多数いました。10年後の彼らに「あ、あの映画見たな」と思い出してもらえるような映画になったと思います。
──映画に関して、意外だった反応や心に残った反応はありますか?<
 ヒットしたことで話題になったのはよかったのですが、攻撃的なあら探しのような反応もありました。女性は攻撃的な方が多く「こんな映画はあり得ない」「男性のファンタジーじゃないか」といった意見がありましたね。あくまでもこれは映画であって、本当のことではないのですが、「劇中のスンミンはあなたでしょ?」と攻撃してくる観客もいて困惑しました。ただ、これもヒットしたおかげなんだと思います。前作はヒットしなかったので、誰にも何も言われませんでした(笑)。
──主人公のスンミンの仕事に対する考え方、恋愛に対する態度などはどの程度自分を投影したものだったのでしょうか?
 スンミンの仕事に対する考え方や取り組み方はおかしいと思いましたか?
──映画の序盤で「投資目的で建てるの? 気が進まないな」というセリフがありますが、職業人としては個性が強いかなと思いました。
 結論から言えば、恋愛映画の装置としてそのシーンは作りました。設計事務所に勤めているサラリーマンが「気が乗らない」というのは、職業人として失格ですが、スンミンはソヨンのことに気づいていたんです。彼は彼女に自分が抱いていた気持ちを悟られたくなかったし、昔受けた傷を思い出したくなかった。また、本当はうれしいのだけれど、うれしいという気持ちも見破られたくなかった。自己防衛本能が働いて「気が乗らない」と言ったのですが、ソヨンが怒って出て行くと「ごめんごめん」と引き留める……。恋愛の駆け引きとしてこのシーンを入れましたが、私の恋愛とは関係ないですね(笑)。
 映画の中のエピソードで、線路を歩いたり、彼女の家に行ったらご両親がいて入れないからアルバムを持ってきてもらって見る──というのは私もやりました。そのアルバムを見て、なんて彼女はキレイなんだろうと思ったのは確かです(笑)。そうした自分の実体験も盛り込まれていますね。
──CDウォークマンが話の中で、キモになるアイテムとして使われていますね。
 いちばん最初にシナリオを書き上げたときは2003年で、そのときはカセットのウォークマンを使っていたんです。本来はLP版をカセットテープに録音したものをプレゼントするという設定だったのですが、制作が伸びたことで'90年代半ばが舞台になりました。するとカセットテープがなくなっていたんですね。ちょうどそのころはアナログからデジタル化する段階だったのでCDにしたのですが、いまとなってはCD自体が感覚的にアナログ化しています。'90年代の小道具としては絶好のものだと思い、効果的に使うことにしました。
──最後に、日本の観客にメッセージをお願いします。
 日本で上映することになり、大変光栄に思っています。ドキドキしていますし、期待もしています。韓国で多くの方に共感していただいた作品なので、日本の方々にも十分に楽しんでもらえると思っています。みなさんがどういう反応をするのか楽しみにしていますし、多くの方の記憶に残る映画になれば幸いです。


イ・ヨンジュ
延世大学の建築学科で学び、10年間建築士として働いた後、映画の世界に転向。映画「不信地獄」(2009)で監督デビューを果たすも本作の企画をあきらめることなく、「JSA」で知られる製作会社ミョンフィルムとの出会いをきっかけに映画化した